愛されざかり~イジワル御曹司の目覚める独占欲~
――――
「先生、ありがとうございました」
藤堂先生が母親と男の子と共に診察室から出てくる。母親はだいぶ落ち着きを取り戻した顔をしていた。
あれから、藤堂先生は母親らのもとへ行くとすぐにクリニックを開けてくれた。ふたりが診察室へ行くのを見送り、私は邪魔にならないように待ち合い室で待っていたのだ。
「隣駅前に、ドラッグストアーがあってその中に処方箋を受け付けている薬局が入っています。日曜日もやっているから、そこで薬を受け取って下さい。あと、その近くに日曜日も開いている内科があるから、うちが休みの日はそこに行くといいですよ」
「わかりました」
「それと、今日は大事にならなかったけれど場合によってはここへ来るより救急車を呼んだ方がいいこともあります。呼ぶべきか迷ったら、それを聞ける小児用の電話相談もあるからそこへかけて専門家にアドバイスを貰ってもいいでしょう」
藤堂先生は若い母親に丁寧に、穏やかに説明をする。小児用の電話相談窓口の電話番号が書かれたチラシのような物を渡している。クリニックの壁にも同じようなポスターが貼られており、どうやら子どもの急な体調変化に対して救急車を呼ぶべきか、どこの医者へ行くべきかなど電話で専門家がアドバイスをしてくれるところがあるそうだ。たしかに子どもに不調があっても、それを上手く訴えることができない。緊急性があるのか、どこの科へかかるべきかなど聞けるのは安心だ。
藤堂先生はついでに、そのドラッグストアーで水分と消化にいいものと水分を買ってあげるよう伝えていた。母親は何度も頭を下げたあと私を振り返った。
「あの、どうもありがとうございました」
「いえいえ。大丈夫でしたか?」
「はい、お陰さまで。本当にありがとうございます」
そう言って、母親は大事そうに息子を抱きながら帰って行った。