愛されざかり~イジワル御曹司の目覚める独占欲~
主任こそ人一倍忙しいくせに、と思いながらも仕事に取りかかる。
午後になるとすぐに店舗周りを始めた。
イベント時には何度か足を運んだことがある店舗ばかりであるため、店員さんも顔見知りだ。イベントスペースは企画書通りに陳列されており、とても華やかで目を引いているとのことで概ね好評だった。
他にも大型ショッピングセンターに入っている店舗では、明日イベントスペースでイメージモデルのトークショーを行う企画があり、私も後学のために企画担当として来店していた先輩に付いて打ち合わせを見学させてもらった。
そんなことをしているうちに、最後の店舗を周ったときには18時になっていた。
「ただいま戻りました」
部署に戻るとまだちらほらと人が残っている。
今回のイベントについての総まとめになる報告書を一気に書き上げ、来週からは少しゆっくりしよう。
そう決め、残業前に休憩スペースへコーヒーを買いに行く。
休憩スペースは自販機と机が二台置かれているこじんまりとした場所だが、人は誰もいなかった。
遠くからは「お疲れ様でした」と退社していく人達の声が聞こえてくる。
私ももう一踏ん張りしたらすぐに帰ろう。
そう誓ったその時、一瞬ふわりとした浮遊感を感じた。
「うわっ」
たまらず、側にあった椅子に座り込む。
軽い立ちくらみで、それはすぐに治まった。
あぁ、びっくりした……。
はぁと重いため息が出る。
疲れからだろうと自覚はあった。でもその反面、仕事は辞めたいとは思わない。
企画部は楽しかった。新しい商品をデザイナーと考え、企画し、イベントを開催する。
そうして見えないところでも女性を輝かせ、気持ちを盛り上げる物を作り上げていくことが楽しかった。
楽しいから夢中になる。
だから、もっとと仕事を頑張ってしまうのだ。
例え一年前に彼氏に振られた理由が「社畜とは付き合えない」としても。
……嫌なこと思い出しちゃった。
「さて、もう少し頑張ろう」
滅入りそうになった顔をパンッと叩いて気合を入れてから、部署に戻った。