愛されざかり~イジワル御曹司の目覚める独占欲~
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どうして人は、顔を会わせたくないときに限って会いたくない人に会ってしまうものなのだろう。
神様が面白がっているに違いない。
「お、帰りか? お疲れ」
スーパーの袋を片手にマンションへ帰ると、門の前で藤堂先生とバッタリ会ってしまった。
先生も仕事終わりなのだろう。スーツ姿でネクタイを緩めている。
「……お疲れ様です」
どんな顔をして会えばいいのかと思ったけれど、藤堂先生は至っていつも通りな様子で少し拍子抜けしてしまった。
まるでキスなんてなかったかのように話しかけてくる。
むしろ、先生にとってはご飯を奢るのと同じくらいの感覚なのかもしれない。それくらいキスは軽いものなのかもしれない。なら気にするほうがおかしいのだろうか。
とはいっても、部屋に帰るまでの間は気まずいことこの上ないが……。
「朝比奈」
「はい?」
「そうやって露骨に距離を取られると、流石に傷つくんだけど」
藤堂先生は苦笑しながら、腰が引けている私を困ったように見下ろす。