愛されざかり~イジワル御曹司の目覚める独占欲~
あ、しまった。
無意識に態度に出ていたようだ。姿勢を正して軽く咳払いをしてごまかす。
「別に距離なんて……」
説得力のない呟きは空気に消える。それに対して、藤堂先生は軽くため息をついた。
「お前、彼氏いたことねぇの?」
「ありますよ」
「じゃぁ、別にそんなに怒らなくてもいいじゃん」
その軽い言い方は少しカチンときた。「たかがキスくらいで」と暗にいわれているようで、妙に腹が立ってくるが、言い返したくなる気持ちをぐっと抑える。
だって怒ったところで藤堂先生には無意味な気がする。
「……怒ってません。ただ私は先生のようにタラシではないのでそんなに気軽なものではないんですよ」
刺々しい言い方になってしまうのは仕方ないように思う。
しかし藤堂先生はそれに穏やかに答えた。
「もうタラシじゃねぇよ」
じゃぁ、なんだっていうの? タラシじゃないからといっても、先生と私のキスの重みは違う気がするのだ。
「威張って言うことではないですよね。それじゃぁ、イタリア人ってとこですか」
「なんだそれ」
藤堂先生は軽く笑う。