愛されざかり~イジワル御曹司の目覚める独占欲~
手を洗っているだけなのに、後ろから抱き締められているような体勢にどうしたらいいかわからなくなる。
私の小さな手は藤堂先生の大きな手に包まれている。水道に伸びた腕の長さも太さも全然違う。
こんなにも、違う。こんなにも。
強烈に藤堂先生を男として意識した。とたんに胸の奥を強く掴まれたようにキュンと苦しくなった。
早く離れたほうがいい。
「先生? あの、もう泡は落ちましたから」
「そうだな」
暗に離れてほしいと伝えるが、何故か先生は背中に身体をさらに押し付けて密着してきた。硬い胸板の感触。抱き締められているわけではないのに、身体が動かない。どかそうと思えば簡単にできるだろうに、なぜかそれができないでいた。
「よく落とさないとバイ菌が入る」
もっともらしいことを耳元で囁くように甘い声を出すのは何故なの?
背中に甘い痺れを感じて内心焦ってくる。
「藤堂先生ー。ふざけているでしょう?」
「ふざけてねぇよ」
戸惑いが伝わる前にわざと明るい声でこの空気を笑い飛ばそうとするが、藤堂先生は伝わっていないのかあえて無視しているのか、それにのってくれない。
どうしていいかわからない。
「手が……冷たい……から……」
「じゃぁ、暖めようか」
包まれていた手の拘束が緩んだので、やっと離れてくれるのかとホッと顔をあげると藤堂先生が覗き込んできた。
そのまま顔を近付けてくる。
あっ、キスされる。
そう確信した瞬間。
「へっっくしょい!!」
甘い空気を切り裂くようなくしゃみの声に、ハッと我に返り慌てて藤堂先生から身体を離した。