恋を知らない
ぼくはツールバーの自動補正機能をクリックして動作させる。ドットの線が少し丸みをおびる。
もう一度自動補正をかける。これが限界だ。人物の顔が、それでも最初のときよりかなりはっきりと識別できるようになった。
道路を歩く女の子の姿だ。歳はたぶんぼくと同じくらい、つまり17歳くらいだろう。
となりを歩いている少女は彼女の友だちらしい。彼女はその友だちのほうを向いて、なにか楽しそうにおしゃべりしながら歩いている。身長はそんなに高いほうではない。体の線は丸みを帯びている。特別の美人とは言えないが、そんなに長くない髪を頭の後ろでまとめて、かわいらしい顔を見せている。
(めぐみ、さん……)
ぼくは写真の女の子に向かって、心の中で呼びかけてみた。
彼女の本名を知っているわけではない。でも、名前がないと落ちつかないから、勝手につけてみたのだ。芸名みたいなものだと自分に言いきかせている。