恋を知らない
女の子はぼくと同じくらいの歳に見えた。ぜんぜん美人じゃなかった。リボンを外して解けた髪が肩までかかっている。丸っこい顔立ちで、小生意気なガキという雰囲気を漂わせている。目はどちらかというと小さめで、眉毛が立派。おまけに、グラビアアイドルのように見て楽しめるグラマラスな体、というわけではぜんぜんなかった。首は短くて、全体に丸みを帯びた体つきで、ウェストがマリアみたいにくびれているわけでもない。欠点をあげればきりがなかった。
なのに、どうしてだろう?
ぼくの目は彼女の笑顔とその歯の白さに釘づけになり、そらすことができなくなってしまったのだ。
ぼくはドギマギしながら、おじぎを返した。
女の子はもう一度ペコリと頭をさげると、きびすを返した。トットットッ、とかわいらしい足取りで走っていく。向こうにいた両親らしいふたり連れと合流すると、ショッピング街へと歩き出した。
ぼくはぼうっとして、彼女の姿が人ごみにまぎれて、建物の中に消えていくのを見送っていた。
――かわいい子ね。
マリアが腕をからませてきた。なんだか言葉がねっとりと湿り気をおびている。