恋を知らない

――ふうん、そうかなあ。

と、ぼくは大きく鳴っている鼓動を抑え、できる限り平静にとぼけて見せた。

――マリアのほうが、ずっと美人だと思うけど?

がらにもなくおせじを言うと、マリアが笑った。

――ねえ、シュウ、わかっていると思うけど……。

――ああ、充分わかってるよ。

マリアが言いかけるのをさえぎって、ぼくは答えた。

ぼくらはマリアロボット以外の女性との恋愛を禁止されている。

貴重な精子をマリアロボット以外の者に放出してはならない、というのが大きな理由だ。

もうひとつ、精子を汚染されてはならないから、という理由もある。男性に生殖能力がなくなった今、避妊具をつけずにセックスするのは普通になった。そのせいで、性病がまん延している。たとえ相手が女子高生であっても安心はできなかった。

――わかってるさ。

ぼくは自分に言いきかせるように、もう一度言うと、マリアを伴ってショッピングモールをあとにした。スニーカーは別のショップで購入することにしたのだった。

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