恋を知らない
8 〈マンション〉
となりの部屋からマリアがもどってくる気配がして、ぼくは仮想平面上の写真を、大急ぎで元の縮尺にもどした。
もどってきたマリアはベッドのかたわらで立ちどまって、ぼくを見おろしている様子だった。
ぼくはそれに気づかないふりをして、仮想平面上の写真データをめくっていく。
マリアがベッドに乗りこんできた。ふふふ、と意味深に笑っている。
「ねえ、シュウ、元気なのね」
「え……」
急になにを言いだすんだろう、と思った。
「こ・こ」
マリアの手がのびてきて、あけすけにぼくの下腹部に触れてきた。
「なんだよ。よせよ」
ぼくは身をひねって、マリアに背を向けた。
今日の分の精子はもう出したじゃないか。そう言いたかった。
マリアはしつこく追いかけて、ぼくの背中にべったりとくっついてきた。
「ふふ、シュウのここ、今日はとっても元気」