恋を知らない
「ねえ、シュウ」
背中に貼りついたマリアが、ねちっこい口調で語りかけてくる。
「あなたの精子はとても評価が高いの。受精能力はトップクラスだし、遺伝的な病気の因子もない。親であるあなたの知能は高いし、ルックスだって悪くないわ。あなたの精子は、あなたが思っている以上の高値で取引されているの。だから、ねえ、シュウ、1日に2回できないかしら。ううん、毎日でなくていいのよ。今日みたいに元気なときだけでいいから、ね?」
マリアの細い指が、軟体動物の触手がうごめくようにいやらしく動いて、パジャマの上からぼくの下腹部を刺激する。ぜんぜんそのつもりがないのに、彼女の指の動きは確実にぼくの官能を高ぶらせていく。
(ああッ、なんて下劣なヤツなんだッ)
ぼくはもう一度自分自身をののしると、マリアの手をふりきって、ベッドからおりた。
「数学の課題、今夜のうちに片づけておきたいから」
そう言い訳して、勉強部屋へ逃げこむのがやっとだった。