恋を知らない
9 〈映画館ほか〉
翌日の日曜日、天気は快晴だった。
マンションの玄関ホールのソファに座って、ぼくは明るい窓の外に目をやっていた。
マンションの外壁に沿って植えられた低木の枝葉が、窓ガラスの下のほうまで迫ってきている。その向こうには、道路をはさんで建つ4階建てのオフィスビルや2階建てのアパートが見えた。
同じソファで、ぼくのとなりに座っているのはマリアだ。エレガントな赤いワンピースを着て、脚を組んでいる。薄いブラウンのサングラスをかけ、口元に落ちついた微笑みを浮かべて、窓の外をながめている。昨夜のねっとりとした淫靡な雰囲気は、みじんも感じさせない。
今日はこれから、クラスメートのキョウと、その同棲相手と、4人でいっしょに映画を観にいくところだ。
少し前、ぼくは懸賞で市内のシネマのロマンスチケットを2枚当てていた。恋人たちがペアで座るロマンス席をふたつ分だ。
クラスメートのキョウに1枚をやったら、タクシー代をもつから、いっしょに行こうと言われた。彼は毎月の手当てを全部自分で取っているから、ふところが温かいのだった。
大して待つこともなく、エレベータからキョウが降りてきた。彼の同棲相手のマリアロボットが少し遅れて続く。
挨拶のつもりで手をあげたぼくは、
「あれ?」
思わず声をあげた。キョウのマリアロボットが、今までと違っていたからだ。