恋を知らない
無人運転のタクシーは安全運転で走り、30分ほどで映画館に到着した。
大小六つの上映ホールを持った建物の前の広場は、映画館に隣接してショッピングセンターやレストラン街があるせいもあって、主に若者で混雑していた。
ぼくたちが観ようとしているのは、ウサギを主人公にしたファンタジーアニメだ。この夏、けっこう話題になったアニメだが、来週で打ち切りになる。
さして興味もなかったが、ロマンスシートも当たったことだし、話のタネに観ておこう、というぐらいの気持ちだった。
開演までに少し時間がある。とりあえず座席を予約しておくことにした。
チケットの発券場のあるホールは、外よりも人口密度が高かった。
チケット売り場に並ぶ人。飲み物や軽食の販売店に並ぶ人。パンフレットと記念品の売り場でたむろする人。開演を待って立ったままおしゃべりするグループ。ブラウンのソフトな色調で整えられた広い空間いっぱいに、人の姿と話し声が満ちている。
マリアとカナが少し離れたところに立って待ち、ぼくとキョウがチケット売り場の列に並ぶことにした。