恋を知らない
2 (回想)
西暦2×××年、男性の精子が突如生殖能力を失った。卵子を受精させることができなくなったのである。
日本だけではなかった。世界中でほぼ同時にこの現象が発生した。
原因はウィルス性の伝染病ではないかと言われたが、本当のところはいまだにわかっていない。原因がわからないのだから、根本的な治療の方法はなかった。
ただ、わずかに希望が残されていた。0.1パーセント、千人に1人の割合で、受精能力のある精子を持った男子が存在したのである。
彼らは個人差はあるものの、おおむね13歳から24歳の間、生殖能力を持っていることがわかった。彼らは「有資格者」と呼ばれた。
どの国の政府も「有資格者」の青少年を保護した。その手法は国によってさまざまだった。
日本では、建前ではあるが、あくまで本人の希望により公的な機構が彼らを保護している。一番生殖能力の高くなる高校から大学まで、マリアロボットと同棲させ、精液を供出させる。採取された精液は体外受精に用いられている。
この取り組みにより、一時は6千万人を割りこむかと思われた日本の人口は、今では8千万人近くまで回復してきている。