恋を知らない
10 〈ホテル〉
「うふふ、しばらく休んでてね」
マリアがぼくの頭を撫でている。
ぼくはセックスのあとの虚脱感から、ベッドの上掛けをめくりもせず、その上にうつ伏せに寝ころんでいる。
マリアはベッドの端に腰をかけ、ぼくを見おろして、頭を撫でているのだった。
「ごめん、マリア、洋服、皺になっちゃったね」
ぼくは顔をマリアと反対のほうに向けている。顔の片方を上掛けにめり込ませたまま、かろうじてそこから浮いた口を動かして謝った。精子を放出して落ちついてみると、自分のしたことが恥ずかしかった。
「いいのよ。情熱的なシュウもすてきよ」
口先だけではなく、マリアは本当に気にしていない様子だった。ロボットだから当然なのかもしれないが。
「もう少しで来るわ。ちょっと行ってくるから」
マリアがベッドから離れた。
精液を受取るロボットが来るのだろうと思った。
マリアはドアのない開口部でつながったとなりの部屋へと歩いていった。そこは入り口側の部屋で、トイレ、バスのほかに、先ほどのセックスで使った丸テーブルが置いてある。
その部屋で膣部のユニットを交換するのだろう。たとえロボットであろうと、女性のそうした姿を見るのは悪いような気がして、ぼくはベッドから動かなかった。
やがてドアをノックする音がした。