恋を知らない
ぼくも有資格者のひとりだ。3年前、中学2年のときに受精能力の可能性が見つかった。その後継続して検査を受け、3年生のときに有資格者と認定された。
――機構の保護下に入っていただけますか?
学校の会議室で、教師を交えて機構から来た数人の大人たちに取り囲まれ、そう訊かれた。
――ええ。お願いします。
と、ぼくはふたつ返事で承諾した。
ぼくにはお金が必要だった。
機構の保護下に入ると、手厚い報奨がもらえる。
高校、大学と、県央にある有資格者専門の学校に通うことになるが、授業料は無料だ。またこの間、3LDKのマンションでマリアロボットと同棲するわけだが、生活の面倒はすべて機構で見てもらえる。その上月々の手当てまで出る。
ぼくの場合は、手当の大半を父親の口座に振り込んでもらっている。
ぼくの父は、ぼくが小学生のときに小さな会社を興したが失敗し、莫大な借金をかかえた。母は家を出ていった。
それ以来父は人生を捨て、すさんだ生活をしている。ぼくに支払われる手当ては、父の借金の返済と生活費の足しになっているのだった。