恋を知らない

「ごめんね、シュウ。あたしにはあなたの気持ちは理解できない。あたしはセックスするために作られたロボットだもの。あなたの心を理解できるようには作られていないの。ただ、シュウに喜んでもらえると思ってしたことが、失敗だったってことだけはわかる。本当はね、機構にはずいぶんと無理を言ってこの体を作ってもらったの。それが失敗したんだから、あたしは機構に返されて、つぶされるわ。だったら……」

顔をあげた彼女と目があった。透明なガラスの瞳だった。

「だったら、シュウ、いっそ、あなたの手であたしを壊して」

唐突な申し出にぼくはうろたえてしまった。何と言っていいかわからず、彼女を見つめ続けた。

「シュウ、あなたのことが好きよ。信じられないかもしれないけど、本当に好き。あたしの全てはあなたのものよ。だから、あなたの手で壊されるのが、あたしの幸せ」

「めぐみ」のマリアの目が、そのとき泣いているように見えた。

ぼくはうろたえてしまった。

だがすぐに、騙されるな、と自分に言いきかせる。こいつはこうやってかわいい女を装うことで、ぼくを手なずけようとしているんだ。騙されるんじゃないぞ。

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