恋を知らない
11 エピローグ
(あ、まただ)
歩きながら、ぼくはちらりと後方に視線をやった。
二十代のOL風の女性ふたりが立ち止まって、ぼくらのほうを見ながら、何かを噂している。彼女たちの表情は楽しそうで、ぼくらの悪口を言っているわけではなさそうだ。
このところ、ふたりで歩いていると、ちょくちょくこんな場面に出くわすようになった。
「ねえ、マリア、何だかぼくら、ずいぶんと注目されてるみたいだね」
ぼくは並んで歩いているマリアにそう呼びかけた。
今日は日曜日で、また映画にでも、という話になった。もちろんロマンスシートなんていう高価なものは買えないから、一般席に座ることとし、交通手段もバスだ。先にIT用品の店に寄って、修理に出していたウェラブル端末を受け取り、歩いて五分ほどの映画館へ向かっているところだった。
マリアはぼくの呼びかけには応えなかった。ツーンとすまして歩き続ける。
今日のマリアの服装は、シルク地のブラウスと膝丈のセミタイトスカート。薄いサングラスをかけてさっそうと歩いている姿は、美人のキャリアウーマンにしか見えない。
「マリア?」
ぼくは再度呼びかけたが、マリアは聞こえない様子だ。