恋を知らない


そこでようやく誤りに気づいたぼくは、呼び方を変えた。

「めぐみ」

「なーに?」

とたんにマリアはにっこりとほほえんで、ぼくのほうに顔を向けた。

ぼくは咳払いのひとつもしたくなるのをこらえ、再度訊いた。

「近ごろ、ぼくたち、やたらと見られているような気がしないか?」

「そうね。注目されているみたいね。きっとあたしたち、歳は離れていてもお似合いのカップルに見えるんでしょ」

「ふうん……」

てらいもなく平然と答えるマリアに、全面的に賛同はしかねるが、

(ま、いいか)

と思った。

あれから二週間になる。

ぼくたちの間に少し変化が生じていた。

ひとつは名前のこと。さっきのように「めぐみ」と呼んでやらないと、マリアは反応してくれなくなった。

もうひとつはセックスのこと。平日は今まで通りマリアとセックスする。週末だけはまずマリアの体とセックスし、そのあと「めぐみ」の体とセックスする。もちろんどちらも中身はマリアだ。

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