それでも僕は君を離さないⅢ
常に冷静沈着で真面目を絵に描いたような人物立花樹里は

今回だけはそわそわと両手をもんで落ち着かない様子でいた。

「どうか、何でもありませんように。」

昨年一度倒れられた社長を案じて祈るしかなかった。

薬はきちんと飲んでいたはずだ。

血圧以外の重大な病状だろうか。

壁に掛かった時計の針の進み方がいつもより遅く感じられた。

チリっと鳴った内線の受話器を素早く握った。

「はい、社長室です。」

相手は業務部門の係長だった。

社長は意識を取り戻しひとまず安静との旨が耳元でこだました。

「承知いたしました。お伝えさせていただきます。」

そう言って受話器を置いた。

「良かった。」

一瞬喉にこみ上げてくるものがあったが

気を取り直して各部門の秘書たちへ緊急通達を送信した。

その後社長の1週間のスケジュールを見直し

指示通り今日と明日と明後日の予定は全てキャンセルした。

その間次々に受信通知の着信メールが届いた。

そしてなぜかスマホが光った。

業務中にプライベートの着信は滅多にない。

多田さんからだ。

今は無視した。

昼休み時間まではデスクから離れてはならない。

ましてや今日は特にだ。

PC画面からも目を離せない。

なぜなら社長が不在中の社長宛てに届くメールの全てを分類しなければならないからだ。

正確には社長と共有しているメールのみだが。

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