それでも僕は君を離さないⅢ
貴彦は正午ジャストに席を立ち

エレベーターで23階から18階に降りた。

どの階も同じレイアウトで

エレベーター前はガラス張りの来客スペースになっていた。

ソファの一つに腰かけて

スーツの前を開け長い脚を組んだ。

ランチタイムに行き交う人を見るともなしに眺め

樹里から着信があればすぐにわかるようスマホを握りしめていた。

何も返信がないため30分待つことにした。

その間貴彦を見る女のウザい視線にさらされて

気分は最悪が頂点に達しそうだ。

一つ向こうのソファからは

聞きたくない会話まで耳に流れ込んだ。

「すっごいイケメン。どこの部門かしら?」

「ちょっと声をかけてみない?」

「きっと女と待ち合わせに決まってるわよ。」

「そうね。声だけでも聞きたい。」

「出たよ、声フェチ。」

「どんな女か見たいし。」

「案外普通じゃない。」

「ぽっちゃりかも。」

「言えてる。」

貴彦はいつまでも続くそのおしゃべりを無視して腕時計を見た。

40分経っていた。

あきらめてソファからすくっと立ちエレベーターで23階の自分のオフィスへ戻った。

がっくりと席に身を沈ませてスマホの暗い画面に問うた。

「なぜ返信がないのか。返信が欲しい。」

貴彦が今まで女に相手にされなかった原因は

イケメンすぎて返って近寄りがたい人種だと思われていたからだ。

立ち居振舞いからちょっとした仕草まで

ぼんやりするだけで絵になるといった具合だ。

これでは外を歩くだけですれ違う世の女たちの心臓をドクドクさせ

どの女をも必ず振り返らせるオーラが漂う始末で

当然恋人がいるに決まっていると誰もが納得し誰もが羨むレベルの見た目だった。

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