それでも僕は君を離さないⅢ
ε. 咲良と慎二
近藤咲良と松田慎二はプレミアムフライデーという金曜日の午後3時上がりの申請を初めて業務部門へ出し、許可を得て真昼間に帰るという違和感を味わっていた。

「どこへ行く?」

「一ヶ所寄りたいところがあるんだ。」

「いいよ。どこ?」

「近くだ。」

「OK。」

慎二はかなりアクティブなタイプだ。

週末はジムで汗を流し釣りに行って過ごすことが多かった。

一方咲良はインドア派で外出は極力せず、趣味の室内菜園に時間を費やしていた。

LED菜園というガラスケースの中で育てたサラダ系の野菜やハーブを食すことを満喫するといった具合で、かなり入れ込んでしまっていた。

ゆえに料理の腕も自然に上達していた。

「このビルだ。」

「へぇ、何系?」

「当然スポーツ男子には興味ある店だよ。」

「ショップ?」

二人は巨大なビルのエレベーターに乗り、いかにも観光客といった他の客たちと共に目指すショップへ向かった。

エレベーター内に響く次の階への音声案内は当然英語だ。

「Seven floor。」

ポーンという音とともにドアが開き、大入りの客たちでざわざわとした雑音がショップからもれて聞こえた。

「混んでるな。」

「こんなもんだろ。」

慎二は咲良の言葉にも躊躇せずショップ内に足を踏み込んだ。

「行くぞ。」

「うん。」

「どうしても欲しいものがあるんだ。」

そこはオリンピックオフィシャルショップで、期間限定であるためにどの日のどの時間帯もこの有り様で、慎二が求めるものが売り切れてなければいいがと思いながら咲良は彼の後を追った。

ショップ内を眺めるだけの客はどうやら咲良だけらしい。

客は皆あれもこれもと両手にグッズを抱きかかえて会計に列を作っていた。

溢れかえる客たちにもまれながら慎二は絶対に手に入れたいバンダナを探しまくった。

こういう時長身のありがたみを感じ、素早く手に取れた柄違いのバンダナを握り締めてショップ内を見渡し、咲良の姿を目で追った。

お互いにもみくちゃになりながらも無言で手を振り合って位置を確認した。

無事に会計を済ませて再びエレベーターで階下へ降りた。

「同じショップがもう一つあるけど他の駅なんだ。」

「で、そっちも行くのか?」

「いや。これだけで充分だ。」

エレベーター内で音声が響いた。

「First floor。」

ポーンとドアが開いた。

入れ違いにショップ目当ての客がまたどっと乗り、乗り切れなかった客は隣のエレベーター前に移動していた。

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