それでも僕は君を離さないⅢ
貴彦は前にいる樹里が突然倒れてきたのを無意識に支えた。

彼女の右肩と背中を下からぐっと抑え、腰を少し折り後ろから声を掛けた。

「大丈夫?」

「す、すみません。」

「立花さん。」

「その声は多田さん、ですか?」

「どうした?」

「目にゴミが入ってしまって。」

「もう少しで上に着くよ。パチパチと瞬きをして涙で流すんだ。」

「は、はい。やってみます。」

樹里は左手のバッグをしっかりと肩に担いでエスカレーターのベルトを握った。

心持ち顔を下にして何度も瞬きを繰り返した。

目に入った異物の痛さで不安なせいもあり涙が出てきた。

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