それでも僕は君を離さないⅢ
今夜は食事と言えどもプチデートな気分を、もちろん樹里は100%そうでないと思うが、貴彦は少なからずそんな雰囲気であって欲しい中に自分を置きたくて、朝からそわそわした気持ちを仕事中なんとか抑えていたものの、肝心要の今この時間は彼女のなぜか素っ気ないオーラに、身が縮まるような思いがしないでもない。

飲み物が運ばれてきたので必然的にお互い自分のグラスを手に持った。

「多田さん、お疲れさまです。」

グラスを傾けて軽く合わせたらカチッと硬い音がした。

なんか寂しい感じがぬぐえないでいる貴彦だ。

「ここ、よく来るの?」

貴彦は感じたままの疑問を口にした。

樹里は手元の品書きに目を落としていた。

「いいえ。初めてです。」

「そうなんだ。」

それにしては場慣れしているではないか。

「今日は焼き鳥の気分だった?」

「一度来てみたかったのですが、一人では入りずらかったのです。」

なるほど、そういうわけか。

貴彦はもう一口ごくりとビールを飲んでそう思った。

「多田さんはコースでよろしいですか?」

「えっ、あ、うん。」

彼女は手を挙げて店員を呼びテキパキとオーダーしていた。

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