たとえば、君と
大型水槽から小型水槽まで
彼女の気の赴くままに
歩いていると、ある小さな水槽の前で
雪乃が指をさした。

水槽の中の物陰を覗き込むように
指された先をじっと見る。
見慣れない魚が三匹入っている中で、
一匹だけが物陰に潜み
二匹が仲むつまじげに泳いでいる。

彼女いわく物陰に潜んでいる一匹と、
じゃれている二匹のうち片割れがオスらしい。
「あれ、この子だけ隠れてるね。」
「…出ていけないんじゃないでしょうか。」
「外されてるって思うから?」
「優しいから、邪魔しちゃいけないって思ってたり?」
「そうだとしたら…」

いい奴?辛い?
ちょっとした心当たりもあって、
なんて言葉を続けようか
口ごもる。

「まぁ、例えばの話ですけどね。」
そういうと、彼女は
次の水槽のほうへ目を移した。
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