目眩がするような恋だった
『綺麗だ』


代わり映えしない褒め言葉に彼の薬指の指輪が加わったとき、あの夜は終わったのだ。


赤いマニキュアは二本目になっていた。

ハイヒールの踵は一度交換した。

甘い香水を色々探した。


私が好きな香りのボディーソープ。お揃いのシャンプー。

林檎色したルージュ。

重なる電話の履歴。

空いたスケジュール帳の小さな枠。


私のためのおしゃれ。あなたのためのおしゃれ。


昨日も、今日も、今夜も、これからも——好きなものをさらけ出す夜を、「今日は」じゃなくて「今日も」にしたひと。


私がいろいろを減らす間、あなたはきっと何も減らさなかった。
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