目眩がするような恋だった
嘘を吐かなかったことを、今さら後悔している。


バニラの香りにしておけばよかった。

可愛い服にすればよかった。


いつもの、最高に可愛くつくって武装した私になら、いくらでも言い訳ができたのに。


あなたがつくったわたしは、諦めがつかないほどそのままのわたしだった。


恋愛は視線の奪い合いだ。


先に目を奪われたのは私。


「あなた」と呼ぶときだけ私を向いていた目は、今や別の人を見ている。


いつも理想を体現して完璧だった彼が、私が目の前に座っているのに、あの目をしなかった。


こちらを向かない色素の薄い瞳に、ああ、と思った。


ああ。ああ。

すきだった。


嫌いと言えるほど口に出さなかった。


何も言わずに始まって、会う度勝手に重たさを増した恋を、秘密のままやめるときが来たのだ。


「それじゃあ、また」

「……また」


すべては優しい目眩の向こう。



Fin.
< 7 / 8 >

この作品をシェア

pagetop