桜色の雪が降る

蛇足①

第12話 蛇足①

顔が歩く。
怪談話ではよくある話だが、これは怪談話ではない。彼女たちがつい先程この廊下で現実に起こった事実なのだ。

「嘘くさ」

酒井が盛大に否定する。
しかし、僕はこれが嘘だとは思えなかった。
嘘ならとんでもなく演技が上手いと言えるだろう。
僕の知る限り、彼女らが演劇部ないしは劇団に所属しているなどという話は聞いていない。

「嘘には見えない」

何より、本当であってほしいと思う自分がいたのだ。

「嘘じゃない!本当のことだよ!」

これ以上無いくらいの不協和音で叫んだ。

「嘘じゃないとして……嘘じゃないとしてどうするのよ!」

「今日寝れないじゃない……」

女子の和が乱れ始めている。
恐怖で怯える者が増えてきた。

そしてその恐怖を紛らわすために、矛先は2人の女子へと向くようになる。

僕はそれを見て、
なんと愉快なものだろうかと
なんと素晴らしいイベントなのだろうかと
思ってしまっていた。


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結局その日は歯止めが効かなくなる前に解散しようという智樹の一言によって終わってしまった。
気分が優れなかった僕だが、部屋に戻る頃には何故かスッキリとした気分だった。

「じゃあおやすみ」

僕がベッドに着いてそう言うと、
班員全員が僕の顔を見て微妙な顔をした。

「お前……なんでそんなに笑ってるんだ」

笑っている?
何が面白くて笑わなければならないのだ。
女子たちがあれだけ怖い思いをしているというのに、そんな不吉なやつなんているはずないだろう。

「笑ってる?何を言っているんだよ。至って真面目さ」

「本気でそれを言っているなら……いや、冗談はやめてくれ」

智樹に続いて原西も僕に文句を飛ばした。
皆先の事件で精神がやられたのだろう。

「大丈夫か?不安なら電気つけて寝てもいいけど」

「鏡を見て来い」

酒井が言う。
なんだというのだ。

僕は鏡の前に立つ。

そこには、僕の満面の笑みが映っていた。


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と、いう夢を見た。
どこからが夢か智樹たちに聞いてみると、
女子が叫んだ辺りからからしい。
つまり、僕は電気を消した瞬間に寝てしまいそのまま現実の続きとして夢を見ていたということだ。
なんと間抜けなのだろうか。

しかし、どこか地に足ついたはっきりとした夢だった。
夢を夢とは思えない自分がいた。

「まあ夢なんてそんなもんだろ」

酒井がまた適当なことを呟いた。
智樹もそうだと頷く。
原西に至っては朝食だというのにパン、麺、ご飯の主食代表を全て食べていた。

さて、今日も1日楽しく行きますかね。

能天気な僕を顔と足だけの生命体が満面の笑みで見つめているのに気が付けなかった。
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