一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 明日は平日、撮影の予定は入っていない。

 休みの前日はさっさと食事と入浴を済ませて、眠たくなるまでだらだらテレビを見ると決めている。

 正直に言って、ストーリーにのめり込むほど面白いわけではない。

 それでも毎週欠かさず見てしまうのは、“彼”が出演しているからだ。


『俺は、お前があいつのために無理してるとこなんか、見たくないんだよっ……』


 お目当ての“彼”がヒロインの女優を抱き寄せた。

 瞬間、顔面のシートマスクがぺらんと剥がれんばかりの勢いで前のめり、脳内実況モードのスイッチが入る。


 ――うおぉっとぉーー、真正面からガツっと行ったーー!?

 なるほどなるほど、ずっとこうやって思い切り抱き締めたくてしょうがなかった、そういうわけですねっ?

 ヒロインの後頭部と背中を同時に引き寄せる指が骨ばっててイイ! 男の手! 彼女の小顔さと髪のサラサラ具合、そして華奢な体格を見事に引き立てています! グッジョブ!

 さらにはほどよい身長差! 彼女の身も心も包み込む包容力!

 あーあー、眉間にしわ寄せて、瞳潤ませて……。

 辛そうな切ない表情がほんと絵になるんだよね、宝来寺伶くんは……――!


 先ほどまでの冷めた私はどこへ行ったのか。

 脳内実況が興奮と共に口からこぼれ出るのを抑えるかのように、自然と私の両手は口元で重なっていた。

 アップで写る、画面の中の“彼”に釘付けになる。

 約800万画素を誇る超高精細液晶テレビで見ても、毛穴ひとつ見当たらない滑らかな肌だ。


 ヒロインの首元に顔をうずめるようにしたまま、“彼”、宝来寺伶は、低く切実に囁く。


『俺が、お前のことを絶対に幸せにする』

『今のままのお前が好きだ』


『だから……俺と結婚しよう』




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