一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 騙された俺が、馬鹿だった。


 車の窓ガラスを叩かれて見ると、髪の長い、若い女性が張り付いていた。

 一瞬ファンに見つかったのだとぎょっとして、対応に悩んだが、何かがおかしい。


 窓ガラスを叩く速度が速くなる。

 指の関節でノックするように叩いていたのが、次第に手のひらでバンバンと、普通じゃなかった。

 何か言っているようだけど、聞き取れない。

 薄暗い視界の中、彼女の口の動きで読み取ろうとして、ハッとした。



『タ』


『ス』


『ケ』


『テ』




 ……今思えば、あんなにピンポイントで俺が座っている側の後部座席の窓ガラスが叩かれたのが、おかしかったんだ。

 後部座席の窓ガラスは、外からは絶対見えないようにフィルムを貼ってある。

 日が落ちてからなら尚更、人がいるか覗き見て判断するなど、不可能だというのに。


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