一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
「あ~、こりゃすごいや」

 カシャリ、カシャリとシャッターを切りながら抑揚なく麻生が呟く。


「やっぱりモデル界のプリンスは違うな、こんな酷い顔でも、ちゃんと絵になる」



「……これ、雫に送っちゃおうかなぁ」


 ――やめろ。




「君が、彼女の姿見ながら果てちゃった動画も」


 ――やめてくれ。





「男の体液、口から垂れ流してるなんて知ったら、」





「彼女、どう思うかな……?」





「きっと君のこと、可哀想な目で見るんだろうなぁ」









 彼女はいつも、こうして脅されていたのだろうか。


 俺の、清らかなスノードロップ。


 優しくて、可愛くて。



 どんなに怖かっただろう。


 どんなに、どんなに…………。



 言葉が見つからない。



 彼女の苦しさ、不安、悲しさ、切なさ、寂しさは。




 会いたい。


 また会えたら、俺がどんなことをしても、ぬぐってみせるのに。







 淀んだ空気を凛と切り裂くように、麻生の携帯電話が鳴った。


「……雫? 来たって、ここに? うそでしょ?」




 ……彼女が、来ている……?




 見られたくない。


 こんな姿は。


 彼女にだけは、見られたくない。





< 107 / 122 >

この作品をシェア

pagetop