一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
「あーーーー、言われたぁ~~~~い」


 口元で重なっていた両手はあっけなく決壊した。

 大きすぎる独り言が漏れたところで、エンディングテーマが流れる。続きはまた来週、だ。

 あんな風に言われておちない女がいるのか、とツッコミながらスマホを見ると、着信が入っていた。

 発信者を見て驚く。

 世界中を飛び回って多忙なため、ほとんど捕まらない恩師からだった。

 しかも、立て続けに4件も。

 こんな時間に、何か緊急事態なのかもしれない。

 ドキドキしながら折り返すと、昔から変わらない、陽気で暢気な声が返ってきた。


『おー、雫ちゃん。折り返しありがとなー』

「塚本さん、ご無沙汰しています」


 どうかしたんですか?と聞くまでもなく、参った参ったと彼はぼやくように続ける。


『急なんだけど、明日来れる子探してんのよ。雫ちゃん、どお?』


 毎度のことだが、どお? と言われて判断するには情報が少なすぎる。

 それでも、今となっては会うことも難しい恩師と同じ現場で仕事ができることは有難い。

 私は二つ返事で了承し、詳細を求めた。


 求めて、……固まった。



『“宝来寺 伶”って知ってる?』
 



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