一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない

開放

 ――誰かが自分の名前を呼ぶ。

 まだ気は失っていないのか。そうか。


 ――……伶!


「…………伶!!」




「れ……ん……?」

 呼び返すと、珍しく息を切らせて焦りを浮かべていた廉が、安堵の表情を浮かべた。


「意識はありますか、怪我は」

「トランク……閉じ込められた。サイアク……」

「……そうですか、もう思い出さなくていい、怖かったですね」


 まるで小さな子どもにするように、廉は俺の頭を胸に抱え込んだ。

 よく知った匂いだ。安心するぬくもりに、素直に、体を委ねる。


 ……こんなことは、いつぐらいぶりだろう。


 大の大人が、しかも男に甘えるなんて。

 彼女には見せられたもんじゃないな、と思ったが早いか、



「宝来寺さんっ!!」



 生々しい残骸が残る地獄のような部屋に、彼女が飛び込んできた。


 まるで、イヴのために天使が降らせたスノードロップのように。

 慰み。逆境の中の希望。

 まさに、俺にとってはそんな感じだ。


「私のせいで、ごめんなさい!!!」


 頭蓋骨に反響するほど、大きな声で彼女は謝った。

 それと同時に、ぎゅっと強く抱きしめられる。

 汚いよ、俺、と言いかけて……

 子どもの頃、エレベーターに閉じ込められて、漏らしてしまったとき、

 「汚くない!!」とハッキリ言ってくれた、

 中学生の彼女と重なった。




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