一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
「宝来寺さんっ!!」


 広い、広いマンションの一室の、広い、広い寝室。

 薄暗い部屋で、石神さんに抱きかかえられるようにして支えられている彼に、何があったかわからない。

 それでも、私の姿を確認して、目を開けるのも精一杯な表情で、掠れた声を出す宝来寺さんを、こんな目に遭わせたのは、私だ。

「ごめんなさい、宝来寺さん。本当に……ごめんなさい」


「大丈夫、だった……? 部屋、怖かったでしょ」


 こんな時にも、私の心配をしているのだろうか? 彼は……。

 頬を撫でられ、誘われるように涙がこぼれる。


「こんなとこまで来て……馬鹿だなぁ」

 力のない笑顔が、彼に起きた出来事の凄惨さを物語っている。

 何があったのか、聞いていいものなのか。

 迷っていると、ボディーガードさんの一人と話していた石神さんが、こちらに戻ってくる。


「伶。動けますか。警察が到着しましたので、このあと事情聴取になりますが」

「……カメラ、ある?」

「カメラ、ですか?」

「そう、麻生のスマホと、あと、デジカメ。写真、撮られた。動画も。流出したら、たぶんやばい」

「すぐに連絡を」

 バタバタと真壁さんが出ていく。麻生を追いかけたのだろう。


 その時、私の視界にシルバーのデジカメが浮かび上がった。

 そばに三脚が転がっている。間違いない、これだ。


 拾い上げ、すぐにスイッチを入れた。

 職業柄、ほとんど癖のような、一連の行動。


「バカ、あんたは見るな……!!」


 宝来寺さんの、鋭い悲鳴のような声が突き刺さったと同時に、目に飛び込んできたのは。




 ――――あれ。視界が。ビリつく。


 いつかのサブリミナル効果のように、今見ている写真の合間に、映像が挿まれる。


 とてもよく似た、薄暗い、部屋。

 半端に服を脱がされた少女の自分。

 抵抗しても、抵抗しても、まったく聞いてもらえなくて、

 腕を縛られ、足を開かされ、

 力の強い大人に囲まれて

 ニヤついた8つの目と

 分厚いレンズの、大きな目が、こちらを捉えている。

 怯えた少女の、私の……顔。


 純白のウェディングドレス。

 小さなテディベア。

 台風の日。狭いエレベーター。


 可愛い、澄んだ瞳の、男の子。



 『しずくおねえちゃん』



 あぁそうか、あの子は。



 泣き虫で、甘えん坊で、

 大福もちみたいな、すべすべほっぺの、





「雫…………!!!!」








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