一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない

再会

「おっ、雫ちゃーん。やっほやっほ!」


 予定時刻ぴったりに現場に到着した恩師――塚本さん――が、路地裏にふらりと現れた野良猫のように顔を出す。


「おはようございます。本日はお声掛けいただきまして、ありがとうございます」

「あれ? ちょっと太った? でも綺麗になった?」


 「来てくれてありがとう」とか「助かったよ」とか「今日はよろしくね」とか言わないあたりが塚本クオリティ。

 相変わらず掴みどころのないあたりが、かえって懐かしい。

 ハハハと愛想笑いを浮かべていると、彼独特のニカッと音が鳴りそうな笑顔で「大人の女の“艶”が出てきたなぁ」と笑う。


 とっさに頬を両手で抑えて肌の湿度を確認した。

 昨夜、あれから超高保湿シートマスク(2枚め)を貼りつけたおかげだろうか。


 恩師から急きょ声がかかった撮影が、あの“宝来寺 伶”のグラビア撮影だと聞き、夢見心地で支度をした。

 いつもより綺麗めでさりげなくトレンドもおさえたスキッパーネックの白シャツとデニムのスキニーパンツに、歩きやすいのに足首の細見えを叶えるスウェードの春パンプスをチョイス。
 
 メイクも20分増量で丁寧に仕上げた。

 それらやっつけの努力でも、大人の女の“艶”とやらに繋がっているのならば、素直に嬉しい。



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