一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 それが、“抱き締められている”のだと気がつくまでに、少々時間を要した。

 彼にされるがままになった自分の肉体は、立っているのが不思議なほど力が入らない。


「どうしてここに? 今までどうしてたの?」


 信じられないほど甘く優しい声で彼は問う。

 もう離れられないんじゃないかと思うほどに密着したまま、彼の顔が、自分の顔の、すぐ左側に。

 そう、昨夜見た、あのドラマのヒロインのように。


 私は人よりも目がいいらしいという話はしたが、自分が“どう見えているか”も、手に取るようにわかる。

 意識を切り替えさえすれば、すでに写された写真のように、俯瞰して見ることができた。

 抱き合う私たちの後ろで慌てふためく付き人たちも。

 自分自身が驚きすらも飛び越えて、笑えるくらい無表情でいることも。



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