一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 悲劇だ。

 悲劇すぎる。

 私はすでに“宝来寺 伶”と知り合いだったのか……。

 しかもこれほど熱烈に再会を喜んでくれるなんて、きっとただならぬ関係だったに違いない。


「(心当たりがなさすぎる……!!!)」


 頭を抱えてうずくまりたい気持ちだった。

 どこだ?どこで会った?

 よりにもよって、憧れのプリンスだというのに。

 普通だったら絶対に忘れないはずなのに!

 頼りなさすぎる己の記憶を辿るが、それらしい手掛かりも見つからない。

 今回のようにどこかで一緒に仕事をしたのだろうか?

 しかし、私が記憶をなくすトリガーとなり得るのは2つ。

 “男性とカラダの関係をもつ”ことと、“撮影されたことを意識する”こと。


 …………まさか。

 まさかまさかまさか。


 恐る恐る、顔を離して彼の顔を見てみる。


「……? どうしたの?」


 か、

 カッコイイィ……!!!!


 くらんくらんと遠のきそうな意識の内側で、鼻血を吹き出してはいやしないかと不安になった。

 なんじゃあその子犬が首を傾げるみたいなあざとい角度は!

 バンバン机を叩きたい衝動にかられる。


 やはり、私みたいな平凡なアラサー女が、こんな天上人クラスにカッコイイ人とカラダの関係を持っただなんて、とてもじゃないけど考えにくい。

 いや、それで言うとこんなに警戒心の欠片もなく、純粋な好意を注がれていることも考えにくいのだけれど……!

 それに、万が一カラダの関係を持っていたとしても、その前後の記憶はあるのだ。

 すべてを忘れてしまったことは、これまでにはない、はず……。


 途端に自信がなくなる。

 何を忘れてしまっているのか。

 忘れてしまったものは、自分自身でもわからないのだから。





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