一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
「あの~、宝来寺さん。今朝は……」

「ハッシー」

 一応きちんと謝罪をすべきだと向き合ったところで、宝来寺伶は付き人の一人を呼んだ。

 先ほど水を手渡していた彼だ。今朝、通路で出会った時に言葉を交わした人でもある。

 少しぽっちゃりしている体型からは想像もできない素早さで宝来寺伶の元にやってきて、ひざまずいた。

「俺、これじゃない水が飲みたい」

「はい!」

「あと、ミクラ」

「はい!」

 入れ替わりに別の付き人が飛んでくる。

「ちょっと寒い。俺のガウン持ってきて。あー、今お前が持ってるやつじゃない方の」

「は、はい!」

 ひょろりと背が高いモデル風の若者が、慌ててスタジオの一室を出ていく。

「それから」

「はい!」

 名前を呼ばれる前に、ひとり残った小柄な女性が飛んできた。

「オカダさんは、外出てて?」

「えっ」

「そんでしばらく入ってこないで?」

 オカダさんが真っ青な顔になる。

 自分は知らず知らずのうちに、何かやらかしてしまったのだろうか、という顔だ。

「それで、廉やみんなが入ってこようとしたら、さりげなく止めておいて」

「え、えっと、それは……」

「……返事は?」

「はっ、はい!!」

 オカダさんがスタジオを飛び出し、部屋には我々3人だけが残った。

 空虚のような静寂が広がる。


< 28 / 122 >

この作品をシェア

pagetop