一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
「え~? それだけ?」

 王子様はご不満のようだ。

 見つめられても何とか呼吸はできるようになってきたものの、自然に会話を交わせるようになるにはまだ時間がかかりそうだ。

 どうしたらいいかわからない。


「俺はずっと、あんたを……やって……のに」


 王子が何か呟いたが、聞き取れない。

 わざと聞き取れないように言ったのかもしれないが。



「……2人って、もしかして知り合いなの?」

 私たちの様子を見ていた塚本さんが問う。

「違います!」
「そうなんですよ~」

 真逆の回答が同時に宙に舞った。

 思わず、じとっと目を合わせてしまう。


「ほらね、ひどいでしょう。俺のことは覚えてないんですって」


 王子は水の入ったペットボトルのフタを開け、私に手渡した。

 受けとったものの、彼の意図が読み取れず、困惑する。


 …………?

 飲んでいいよ、ってことだろうか?

 ……このタイミングで? 飲みかけの水を?


 難しすぎるクイズにお手上げの状態で、窺うように宝来寺さんを見ると、


「のどが渇いた。飲ませて?」


 子どものように甘えたことを、何でもないことのように宣うた。


「のっ……。飲ま、」


 ――飲ませてだぁ!?


 心の中で彼の台詞を繰り返した瞬間、脳内からマグマが噴き出すかと思った。

 怒りが爆発したのではない。想像力が許容量を超えたのだ。


 狼狽えている私は、よほど可笑しい顔をしていたのだろう。

 宝来寺伶は我慢できないと言った様子で吹き出した。

 細長い指で整った顔を覆い、くすくすと肩を震わせている。

 自分が笑われているにも関わらず、今日初めて見る彼本来の笑顔に、不覚にもときめいてしまった。


「血液の勢いが足りないんだっけ、俺」


 モニターに映る彼の写真を見た私の感想だ。

 彼はおもむろに立ち上がると、セットのベッドに腰かける。


「こっち来て。隣に座って」


 ちょいちょい、と手招きされ、素直に座った。

 ベッドの軋みにドキリとする。



「俺にキスしてよ。最高にエロいやつ」






「俺を、その気にさせてみて」






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