一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 どう考えても普通じゃない状況は、私が嫌だときっぱり断れば、きっとそれで終わる。

 いつ終わるかわからない、根競べのような撮影が、このまま続くのだろう。


 それでも、吸い込まれそうな彼の瞳に

 いつの間にかとっくに吸い込まれていたらしい私は、

 とっくに普通じゃなくなっていたんだと思う。


 ――や、やるしかない……!


「い、石神さんに叱られても、知りませんからねっ」

 半ばヤケになりながら、キッと彼を睨みつけた。

 彼はまったく動じず、

「なんでそこで廉が出てくんの。何か言われた?」

「じょ、女性のスタッフは近づけないようにしてるって……」

「ああ、それなら大丈夫。あんたはトクベツだって、廉も知ってるから」

 私の髪を、梳くようにほどいた。


 私は、トクベツ……?

 わけがわからないのに、不安よりもときめきが勝る。

 やっぱり、だいぶおかしくなってしまっているんだろうか。


「い、いきますよっ」

「ハイハイ、どうぞ」


 くすくす笑いながら、宝来寺伶は目を閉じた。

 人形のように整った顔立ちに、長い睫毛。

 こんなに近くで見ても、本当に毛穴ひとつない。

 高い鼻にぶつからないように角度を調整して、

 ゆっくりと、口づけた。



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