一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
「んっ」

 柔らかな唇の感触に驚いて、こちらの身体が跳ねてしまう。

 こんなにドキドキするキスをしたのなんて、どれくらいぶりだろう。

 その相手を思い出すのに、記憶を辿るのに、回路が麻痺しているようだ。

 唇と唇が一瞬触れただけの、あまりにも軽いキスは、あっけなく終わった。


 長い睫毛がふぁさりと上がり、凪いだ瞳に私が写っている。


「……何」

「へ?」

「今の何? なんか触った? なーんも感じないんだけど」

「そ、そんなこと言われたって無理ですよ! 精一杯努力しましたよ!」

「全然ダメ。もっかい。やり直し」

「え、えぇぇ~……」

「俺をその気にさせてみろって言ったでしょ。滾らせてよ。

 全身の毛が逆立つような、血液が沸騰するくらいのキス、ちょうだい?」


 ……なんというハードルの高いご注文だろう。

 第一、そんなキス、今まで一度もしたことがない。


 もじもじしている私に痺れを切らしたのか、彼は私の腰に手を回して強引に身体を抱き寄せた。


「ほ、宝来寺さんっ!?」

「くっつかないとできないでしょ、キス」


 また、あの香りに包まれる。

 先ほどのあの軽すぎるキスでも、こちらはまだ余韻が抜けていないというのに、本当に何とも感じなかったんだろうか。

 潤んだ瞳と目が合う。

 ……違う。

 体の、気の流れが。

 瞳に少し、餓えた獣のような疼きが宿っているような。


「しょうがないから……見本、見せてあげる」


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