一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 唇を押し当てられた、瞬間。

 全身に軽く電気が走るような感覚がして、彼は私をからかってなどいない、真剣そのものだ、と強制的に理解させられた。

 顎から首の付け根にかけて片手を添えられ、逃がさないと言わんばかりに固定される。

 彼は少しずつ口づける場所を変え、私の反応を探るように上目遣いで見つめた。

 その視線に耐えられなくて目をつむると、ついばむ力が少し強くなる。


 “目をつむるな”
 
 “こっちを見ろ”


 そう言われている気がして、恐る恐る彼の瞳を覗く。

 真剣なまなざし。

 どこかで、見たことがあるような。

 胸がきゅっと締め付けられるような切ない愛情が生まれ、不思議な気持ちになる。


 その刹那、彼の舌がゆっくりと唇の間を割り込んだ。

 上唇をついばみながら、舌先で唇の内側をなぞられ、思わず背中がぴくりと跳ねる。

 目ざとい指先に跳ねたところを優しく撫でられ、鼻から震えるような吐息が漏れた。

 身体の奥から一瞬、じゅわりと熱いものがにじみ出る。

 唇同士が離れる度に起こる軽い水音と、彼の甘い吐息が、聴覚を刺激した。
 

 
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