一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 生まれて初めて彼氏ができたのは、高校1年の夏だった。

 生まれて初めてカラダの関係を持とうとしたのも、高校1年の夏だった。

 その時私は、記憶を失う2つめのトリガーに気が付く。


 自分の“初めて”を、初めての彼氏に捧げようとしていたのに、目が覚めたら、すべて終わっていた。

 途中で寝てしまったのだと思い謝ると、最後までしっかり意識はあったという。

 それから何度、誰とカラダを繋げても、私の記憶は、途中で途切れてしまっていた。


 “男性とカラダの関係を持つ”ことは、カメラで撮られる時のような恐怖はなかった。

 眩暈やふらつき、吐き気といった前兆もないまま、意識の糸を何者かに突然ハサミでぷつんと切られたように、気が付いた時には、すべて滞りなく終わっている。

 終わって、しまっている。


 何人かとカラダの関係を持っていても、気持ちの上では、男性経験は1度もなかった。

 そのことに焦りや寂しさを覚えなかったと言ったら嘘になる。

 私は心から信頼していた彼、麻生 琉司にそのことを打ち明けたところ、彼との性行為を動画に撮ることを提案された。

 恋人同士のプライベートな行為が動画に残ってしまうことに人並みの抵抗感はあった。

 しかし、意識が途切れている間の自分がどうしているのか気になるところではある。

 動画を見ることで、この症状に何か前向きな変化が訪れるかもしれない。


 一縷の望みをかけて……彼に同意した。


 やり直したくてもやり直せない。


 ――私の落ち度である。


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