一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 幾度か満足のいく瞬間が切り取れたとき、ふと、ファインダーの中の彼らの姿に、幼い自分が重なった。

 よく夢に見る、新婦とお揃いの純白のドレスを着た、少女の自分だ。


――……ねえ、もう行こうよ

『やだ!』

――ドレスも返さなくちゃいけないし、お母さんたち探してるよ

『やーだ!』


 ……ああ、あの、大福もちみたいなすべすべほっぺの男の子だ。

 ツツジの生垣の陰でうずくまって、何やらぐずっている。反抗期なのだろうか。


『だって、これぬいだら、しずくおねえちゃんと、バイバイしなきゃいけないんでしょ』

――そうだけど、またすぐ会えるよ

『やだ! まいにちいっしょがいい!』

――うーん……、じゃあママとバイバイして、お姉ちゃんの弟になる?

『やーだ! おねえちゃんのおむこさんがいい!』


 大福もちくんはキッと私を睨みつけると、ついに声をあげて泣き出してしまった。

 少女の私は困っている。


――わかったわかった、じゃあお婿さんね!

 自分より幼い男の子をなだめるために言った、約束とも言えないひとことに、

『ほんと?』

 男の子の涙が止まる。

 頬と鼻は夕焼け色にほんのり染まり、澄んだ瞳がくるんと輝いた。

――うん、ほんとほんと

『やった! やくそくね! おねえちゃんだーいすき!』

 男の子はわたしに抱きつき、ちゅっとほっぺにキスをすると、満足そうに微笑んだ。



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