一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 純白のウェディングドレスを身に纏った自分の後ろ姿の写真。

 少年のようなはにかんだ表情で私の手を取る花婿は、信じがたいことに部屋に飾られたポスターの人物と同じ。

 艶っぽくこちらを見つめる、流し目の美青年であった。


 宝来寺 伶(ほうらいじ れい)。24歳。

 とある女性誌が企画した“抱かれたい男”ランキング、若手部門で2年連続1位。

 モデル界のプリンスと謳われる、国内外で活躍する人気モデルだ。

 ここ数年でテレビドラマや映画、CMへの出演も目立ち、女子高生から年配のおばさままで、幅広い層から支持されていた。

 もちろん、今年30になる私も彼の大ファンである。


 ……そんな彼と? いつの間に?
 

 私はこの瞬間を、“ 覚 え て い な い ”。


 確実にわかっていることは、これは雑誌の撮影により撮られたもので、彼と結婚したわけではないということ。

 当たり前のことだが、写真のすべてを信じてしまうと、私は彼と結婚したのか!? なんて盛大な恥ずかしい勘違いをすることになる。なので違うということは、先に言っておく。
 

 それでも、この写真が残っているということは、私はウェディングドレスを着て、花婿衣装の彼に手を取られて、こんな風に微笑みかけられたということだ。

 これだけは、どんなに加工修正技術が進んでいるこの時代といえ、覆せない事実である。と、私は考える。

 こんな私だけが得するような加工、誰も施してくれないだろうからね。


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