一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
――俺の方が、ずっと、あんたに


――憧れてた……?




「それってどういう――」

「しっ、静かに!」


 急に頭を低く押さえ付けられ、身体を引き寄せられた。

 尻もちをついたのにお構いなしで、抱きかかえられるように身を潜める。

 一体何だというのだと思って宝来寺さんの視線の先を辿ると、マネージャーの石神さんが辺りを見まわしていた。

 宝来寺さんを探しているに違いない。


「……なんで隠れるんですかっ」

「そんなの、見つかりたくないからに決まってんだろっ」


 吐息がかかるほどの距離でひそひそと話す。

 石神さんに見つかったら……確かに、嫌味のひとつやふたつじゃ済まされないだろう。

 想像しただけで寒気がして、背中に嫌な汗が流れていくのがわかる。

 反して、宝来寺さんに触れられている部分は、湯せんでとろけたチョコレートのように熱を帯びていた。


「行ったか……」

「……よかったんですか? 石神さん、困ってるんじゃ」

「だって、見つかったら、あんたと話せなくなっちゃうだろ」

 さも当たり前のように真顔でさらりと言われ、トクンと胸が鼓動する。

 慌てて少し、距離をとった。


「……あんたはさぁ、なんでカメラ始めたの」

「え?」

「モデルじゃなくて、カメラマンになった理由」


 唐突な質問に、少し驚いた。

 そんなところに興味を持ってもらえるとは思わなかったのだ。


「そう、ですね。撮られるのがなんか苦手で……撮る側にまわれば、撮られることはないかなって」

「……ふぅん」


 納得したのかしていないのか、わからないような反応だった。

 手持ち無沙汰な顔で、足元にたくさん生えていたシロツメクサを、何本か摘み取っている。

 と思ったら、慣れた手つきで編み始めた。


「えっ、めちゃくちゃ器用じゃないですか……!」

「……できないの?」

「た、たぶん……子どもの頃は作ってたかもしれないけど」

「やってみる?」



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