一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
「知ってる? シロツメクサの花言葉」

「え、知らないです」

「クローバーの花言葉は?」

「え、えーと……、幸せ、とか、そんなの、かな~?」


 この人は花言葉にも通じているのか。

 女子力の差を見せつけられて愕然とする私をよそに、小さな花冠は完成した。


「……じゃあ宿題。次までに調べておくよーに」


 学校の先生風に冗談めかして言うと、私の左手をとって……薬指にできたばかりの花冠をはめた。

 午前中に目にしたばかりの、教会での指輪交換のワンシーンが思い出され、赤面する。


「俺にも、はめて?」


 ……やっぱり。

 なんとなくそんな気はしていた。

 上目遣いで可愛くおねだりされた、と思っていいのだろうか。

 恥ずかしさでいっぱいになり、ますます熱が上がっていく。

 はやく、と急かされるがままに彼の左手をとり、私の編んだ花冠――だったもの――を、彼の薬指にはめた。

 少し、手が震える。


「……はずさないでね、それ」

「えっ」

「……約束」


 私の返事を待たずに、彼は小指同士を絡めてきた。

 お揃いのシロツメクサの指輪が、おなじみのメロディーに乗って縦に揺れている。


「またね」


 スーツについた汚れを軽く払うと、私の頬に軽くキスをして……彼は去っていった。


 腰が抜けたように、へなへなとその場に座り込む。

 子どもたちは、いつの間にかいなくなっていた。

 遠くからかすかに、彼を見つけて叱っているらしい石神さんの、芝居がかった声が聞こえたような気がした。





< 57 / 122 >

この作品をシェア

pagetop