一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 1年で1番寒い冬のある日、祖母に手を引かれ、教会に花を届けたことがあった。

 庭で育てた、スノードロップという、小さな白い花。

 日本語では『雪のしずく』というのだと聞いて、すぐに気に入った。


 むかしむかし、禁断の実を食べて楽園を追い出されたアダムとイヴは、地上の寒さに凍えそうになっていた。

 永遠に続くかと思われる冬に絶望したイヴは、とうとう泣き出してしまう。

 そこに天使が舞い降りて、降りしきる雪をスノードロップに変え、『もうすぐ春が来るよ』と2人を励ました。


 ……祖母が教えてくれた、遠い異国に伝わる物語。



 天使が舞い降りてきそうな清らかな姿も、

 泣いている自分を励ましてくれる優しさも、

 同じ名を持つ彼女にぴったりだと思った。



 今にも雪の雫がおちそうな、うつむき加減の白い花。


 どんな風に愛せば、あなたはこちらを見てくれる?




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