一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 再会するまでの間も、実は、幾度となく想像の中で彼女を抱いていた。

 実際の彼女は――29歳の今の彼女は、想像よりも些かふくよかで大人の女性らしくなっており、しかも、あろうことか触れてしまった。

 どこに触れてもふにふにと柔らかい肌の感触が強く残り、尚のこと興奮を抑えられずにはいられない。

 そうこうしているうちにだんだんと熱く激しく主張し始めた自分の分身を慰めるか否か考えて……、前者を選ぼうと無意識的に決めたその時、部屋のドアが無機質にノックされた。


「ただいま戻りました」


 ひとつ深呼吸をしてから返事をすると、同居人が顔を出した。

 テーブルの上に広げられたクリアファイルと缶の中身を見て、汚いものでも目にしたかのように眉をひそめたのを俺は見逃さない。


「……またですか、飽きませんね。伶の“萩元しずく”コレクション鑑賞会。」

 ……恥ずかしいから、声に出して言わないでほしい。

「ちょっと執着しすぎじゃないですか。いい加減気持ち悪いですよ」

「お前こそ、俺の何でもかんでも集めて、似たようなことしてんじゃんか」

「失礼な。私のは仕事です。一緒にしないでいただきたい」


 同居人でありビジネスパートナーでもある石神廉は、自宅でも常にこんな感じだ。

 ひと回りほど年上だが、同居を始めた9年前からほとんど容姿に変化がない。

 日頃の冷静沈着な言動――時に、人情味を欠いた――も加味され、所属事務所の人間や業界関係者には、サイボーグなんじゃないかと疑われている。

 だがその実態は、誰よりも俺のことを想い、成功を考えて尽くしてくれる。

 国内屈指の難関大学を卒業している優秀な頭脳と、“ガンガンいこうぜ”と言わんばかりのたくましい行動力。

 とても心強い味方だ。


「あなた、欲求不満なんですよ。よければ適当に見繕って手配しましょうか、また」

「……いい。そんなの」


 ――時折、お節介すぎる気質はあるけれど。




< 67 / 122 >

この作品をシェア

pagetop