一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 ……? どういうことだ?

 俺に謝りたい? 彼女が?


「何やら切羽詰まった様子でしたが」

「なんで?」

「さあ。あなたに取り次いでほしいと頼まれましたので、丁重にお断りさせていただきました」

「取り次いでって……電話? なんでお前の携帯番号、い、いつの間に!」

「名刺を、交換しましたので」


 ぴらりと、長方形の堅紙をつまんで見せる。

 そこには確かに『萩元 雫』と彼女の名前、加えて、小さな文字で番号とメアドが……


「見せて!」

「いけません、個人情報ですので」

 反射的にひったくろうと伸ばした腕を、ひらりとかわされた。

「くっ……ずるいぞ、廉」

「仕事ですから」


 悔しさのあまり、歯ぎしりしそうになる。

 彼女に関係するものは、なんでも欲しい。


「連絡なんか、しないから……」

 しない、じゃなくて、できない、んだけれど。



 ――俺の愛は、間違っているだろうか?




「……本当に、あなたという人は」


 廉が呆れてため息をつく。

 諦めたように彼女の名刺を差し出し、釘を刺した。



「……絶対に禁止ですよ」



 なんだかんだで俺に甘い。

 もちろん、信頼があってのことだと自負しているけれど。


「……ありがと、廉」


 マネージャーから彼女の名刺を受け取り、

 彼の姿が見えなくなった後で、


 その小さな愛しい紙に、そっと口づけた。





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