一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
 いつものようにヘアメイクと着替えを済ませ、スタジオへ向かう。

 「よろしくお願いします」の声が飛び交い、俺も頭を下げた。


「あらら~? 今日はすこぶる機嫌がいいって石神くんから聞いてたんだけど」

 塚本さんが茶化すように言う。

 『結局いつも通りのテンションなのか、せっかく萩元雫を連れてきたのに』と言いたいのかもしれない。


 先日の撮影後、浮かれて余計なことをべらべらと話してしまった。

 萩元雫が元モデルで、自分の先輩で、憧れの人で、ずっと会いたかったんだ、とか……。

 また会いたいので、連れてきてください、とか……。

 事実、今日彼女がここにいるのは、自分のその発言を受けて塚本さんが気を利かせてくれたに違いない。

 ……と思うのは、自惚れだろうか。



「石神さーん!」


 “石神さん”ではないのに、盛大に振り向いてしまった。

 彼女が廉を呼び止め、駆け寄っている。

 ……なんだか以前より親し気ではないか?

 そういえば彼女から電話がかかってきたと言っていたっけ。

 俺に用事だったらしいが……


 ……モヤモヤする。

 彼女はいつもこんな風に、他の男と会話しているのだろうか。

 中には、彼女に想いを寄せている男がいてもおかしくない。

 全然おかしくない。


 彼女は世界一、可愛いのだから。




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